水安全計画
1.水安全計画の重要性
持続可能な水道事業運営をシステムとして支えるためには、基本構想に相当する水道事業ビジョンに加えて、水安全計画が必須のアイテムとなります。水安全計画を単独で単年度に実施する場合に加え、複数年次分割、そして水道事業ビジョンなど他の計画業務との一括実施など種々の方法が考えられます。管理委託を実施または予定されている事業体では、水安全計画におけるリスク評価が特に役立ちます。受託者側にリスク情報を伝えることができ、より安全で効率的な管理委託が期待できます。
2.水安全計画の概要
2-1.水安全計画とは
「水安全計画(WSP:Water Safety Plan)」とは、食品業界で導入されている衛生管理手法(HACCP※)を参考として、安全な水道水を常時供給するシステムづくりを目指す手法です。主な作業は以下の2点であり、水質に関する包括的な危害評価と危害管理を行います。
- 水源から給水栓に至る水道システムの全過程に存在する危害を抽出・特定する
- リスク管理の観点から、優先的に対応すべき危害を抽出し、その継続的な監視・制御を行う
※Hazard Analysis and Critical Control Pointの略
厚生労働省の訳:危害分析重要管理点、ISO呼称:危害分析またはハザード分析
2-2.水安全計画の意義
我が国の水道水は、原水水質の状況などに応じて水道システムが構築され、法令で定められた基準を遵守することにより、その安全性が確保されています。しかしながら、工場排水の流入、浄水処理のトラブル、施設の老朽化など、水道水の水質に関する様々なリスクが存在する中で、水道水の安全性をより一層高めるためには、信頼性(安全性)の高い水道水を供給するためのシステムを構築する必要があります。水安全計画は、水源から給水栓に至る水道システムに存在する危害を抽出・特定し、それらを継続的に監視・制御することにより、安全な水の供給を確実にするシステムを目指すものです。
2-3.6つの効果
水安全計画を策定することで、安全性の向上の他、図1に示す通り6つの効果が期待されます。
2-4.行政施策の動向
安全な水道水の供給を確保するためには、水源から給水栓までの統合的アプローチによる水質管理が重要であり、「新水道ビジョン」(図2)では、その手法として水安全計画の必要性を明記しています。
3.計画策定の検討プロセス
「水安全計画策定ガイドライン」(平成20年5月、厚生労働省)に従って水安全計画を策定する際のポイントを以下に示します。
3-1.流域内汚染源情報の収集・整理
水道水源の流域内に存在し、水質リスクとなりうる様々な情報をGISソフト上で整理し(一例として図3)、危害原因事象を整理する際の参考情報として活用します。
3-2.危害原因事象の抽出と対応措置の設定
水道システムにおいて予測される危害原因事象について、その発生頻度と影響程度を検討し、「リスクレベル設定マトリックス」(表1)を用いて5段階のリスクレベルを設定します。また、各々の危害原因事象に対して、対応措置(どこで何を監視し、どのような対応を講じるか?)を整理します(表2)。
発生箇所 | 危害原因事象 | 関連する項目 | 対応措置 |
---|---|---|---|
水源 | 降雨による濁水 | 濁度 | 凝集剤の注入強化 |
水源 | 藻類によるpH上昇 | pH | 硫酸の注入、凝集剤の注入 |
配水管 | 残留塩素不足 | 残留塩素 | 塩素の注入強化、ドレン、給水停止 |
ポンプ | 落雷による停電 | 水量 | 点検、補修 |
3-3.水質管理目標の設定・逸脱した場合の対応
特に重要な水質項目について、水質管理上の管理目標を定めるとともに、管理目標値を逸脱した場合を想定し、「異常の認識と判断」や「対応措置」を取りまとめます。
3-4.文書と記録の管理・妥当性の確認など
水安全計画に関連するマニュアルや文書を整理するとともに、作成した水安全計画の妥当性を確認するための方法などについて取りまとめます。
3-5.PDCAサイクルによる運用と定期的な見直し
計画の実効性を高めるため、PDCAサイクル(図4)に基づき定期的に評価・見直しを行う方法を取りまとめます。
図4 PDCAサイクルによる継続的な改善
3-6.成果の有効活用
水安全計画の成果は、水道事業ビジョン、アセットマネジメント、施設整備計画など、他の構想・計画へのインプットとなるように取りまとめます(図5)。