被災地域の雨水排水プロジェクト
震災で地盤沈下した沿岸都市に多発する浸水被害から市民を守る
PROJECT MEMBER
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下水道事業部 東部施設部
副部長(記事掲載時)
O. K.
1997年入社
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下水道事業部 東部施設部
技術第二課 主任(記事掲載時)
I. M.
2004年入社
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建築事業部 技術第一部
技術第一課(記事掲載時)
S. T.
2010年入社
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機電事業部 東部技術部
電気第一課 課長(記事掲載時)
K. T.
1995年入社
震災からの復旧が進む中、生じた新たな問題

2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震は、わが国に甚大な被害をもたらした。下水道事業部のI主任は「地震発生時は出張で仙台市にいて、地元の方々に助けられながら何とか東京に戻ることができました。その後早い段階で被災地を訪れた際、津波による壊滅的な被害を受けた悲惨な状況を目の当たりにしました」と当時のことを振り返る。
現在、都市機能の回復は進んでいるが、某市では地震の影響により沿岸地域が地盤沈下したため、従来は自然流下で排水されていた雨水が都市にあふれ、広範囲にわたる浸水被害が新たな問題になっている。
これに対処すべく、日水コンは市の依頼を受け本格的な雨水排水計画に取り組んだ。その中核を担うのが、12ヵ所に及ぶ雨水ポンプ場の建設である。
この計画では一度にいくつもの施設を建設するため、設計にあたり複数のコンサルタント会社がかかわることとなった。そこで計画策定業務を担当した日水コンが主体となり、プロジェクトを推進した。
前例のないものづくりの難しさ
対象水量毎秒9トンのポンプ場に11,700m3の雨水調整池を併設する施設の設計業務には、日水コンのあらゆる分野の技術者が携わっている。プロジェクトチームをマネジメントする立場になった下水道事業部のO副部長が、この案件の特徴を語った。

「震災後に沿岸地域では堤防整備が計画されましたが、それは第一防御となる一線堤と、最大級の津波が起きた場合に減勢させる二線堤からなります。今回はそれらに挟まれた地域にポンプ場を建設する計画でした。すでに都市計画や堤防づくり等が先行しており、各関係部局の進捗に応じた条件のもと、設計業務を進める必要がありました」。

I主任もこのプロジェクトの特徴を強調する。
「前例のない深刻な被害を受けた地域の復興に対し、国からの注目度も非常に高い。一度にいくつもの施設を建設するため、その莫大な維持管理等の費用をいかに抑えるかという課題に向き合い、設計に落とし込んでいきました」。

さらに、機電事業部のK課長はこう続けた。
「大きな計画のもと12もの施設を複数の会社が設計する上で、確定していない与条件も多く、各設計担当者の思想を集約していく必要がありました。そこで、全体最適を実現するために意見交換の場を設けて標準の施設仕様を定めるなど、幅広い業務に携わりました」。
建築事業部のSは、公共建築物としての先進性を指摘する。「2つの防御の間にある地域ですので、万一の際には高い場所に避難する必要があります。今回設計したポンプ場施設は周囲に比べて高い建物だったため、外部階段を設置するなど避難所としての機能を持たせました」。
こうした今までにない状況下での設計にあたり、日水コンのコンサルティング技術者たちは常に情報を収集し続け、知恵を振り絞って設計業務を行った。
コンサルタントの使命
これまで数多くのプロジェクトに携わってきてはいるが、彼らにとって被災地復興事業に関わる業務は貴重な経験となっている。従来通りに事業を進められない状況では、設計の指針が適用できない場面も少なくない。いつも以上に考えることが多く、大変な仕事でもあった。
しかし、K課長は「むしろコンサルタントとしての腕の見せ所と感じました。考え抜いたことで、あらためて下水道事業のことを深く理解する機会にもなりました」と笑顔で語る。

若手のSは、地域住民にとって絶対に必要な建物の設計はどれもやりがいのあるものと話し、「被災時のお客様は決めることが多すぎていつも以上に困っている状況。そんな時こそコンサルタントとして道を示す必要があると痛感しました」と真剣な眼差しを見せた。
プロジェクトを進める上でO副部長が衝撃を受けたのは、民間産業の立ち直りの早さだ。海産物の倉庫などの建物はきれいに建設され、早期に事業が再開されていた。「全力で取り組みながらも、はがゆい思いをしました。今回の業務で非常時対応のノウハウを身に付けることが出来たので、今後同様の事態が生じた際には、迅速な対応がとれるよう備えたい」と語気を強める。
まだ被災地復興は終わっていない。「どうにかして地域住民の役に立ちたい」という想いがコンサルタントの原動力になり、今も事業を推進している。
コンサルタントを目指すみなさんへ
ものをつくるメーカーや建設会社とコンサルタントの仕事の違いを、K課長は次のように説明する。「時には“つくらないことが正解”という判断もしうるのが私たちの仕事です。その仕事の幅広さはコンサルタントという職業の魅力です」。
また、事業の流れ全体において、専門家として常にアドバイス等を提供するコンサルタントの役割を「地方自治体さんの良きパートナー」とO副部長は表現する。

そして、I主任から熱いメッセージが寄せられた。
「コンサルタントとは、Sが話したとおり“事業が適切に進むよう導く手助けをする存在”だと思います。皆さんには日々勉強し、広い視点で物事を俯瞰する姿勢、またいろんなことに興味を持つ姿勢を常に持っていてほしいと願います」。
人間が住み続ける限り、その生活を支える下水道の仕事は絶対になくならないものであり、かつ常に学び続けチャレンジすることが求められる。そんなフィールドで、日水コンのコンサルタントたちはこれからも技術力を研鑽して社会に貢献していく。
