下水処理場消化ガス発電プロジェクト
施設や事業の背景を把握し、イメージをより良い形にする
PROJECT MEMBER
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機電事業部 東部技術部
副部長(記事掲載時)
F. T.
1993年入社
汚泥消化ガスを有効活用する下水道施設へ

近年、地球温暖化防止及びエネルギー有効利用の観点から、バイオマスである下水汚泥の消化ガスが注目されている。そんな中、J市下水道センター(下水処理場)で発生する消化ガスは、汚泥消化タンクを加温する熱源として使用されているのみで、余剰分は燃焼装置により燃やして処分されているという現状があった。
機電事業部のF副部長がプロジェクトの背景と概要を説明する。
「J市では『J市地球温暖化防止実行計画』を掲げ、2006年度から4年間で6%の削減を目指して温室効果ガス排出量の抑制に取り組んできました。さらに、2013年度には低炭素都市への転換等を基本方針とした『J市再生可能エネルギー導入計画』を策定し、重点的に利活用を推進するエネルギー資源としてバイオマスを取り上げています。
この計画に基づき、消化ガスの有効利用を進めるべく消化ガス発電設備を導入し、CO2削減及び下水道センターの経費削減に貢献する、というのがこのプロジェクトの概要です」。
施設に適したプラント設備を検討
消化ガスの利用については、下水処理場の外へ供給するケースと処理場内で利用するケースがあり、また消化ガスのまま燃料として利用する方法や、発電機の燃料にして得られた電力を利用する方法などがあり、処理場によって利用のされ方が異なる。F副部長が検討した内容について語った。
「今回の設計では、消化ガスを燃料とした発電を行い、発電により発生した熱は消化タンクを温める水の加温に使用することとしました。発電電力の用途としては、『再生可能エネルギーの固定買取制度(FIT)』を利用して売電するというアイディアもありましたが、このプロジェクトでは処理場内の使用電力にあてることを提案しました」。

画像提供:ヤンマーエネルギーシステム(株)
また、発電機の方式も「ガスエンジン方式」、「マイクロガスエンジン方式」、「燃料電池方式」等があり、これについてもあらゆる面から比較検討を行った。
「J市への適用性や経済性などを総合的に判断した結果、『マイクロガスエンジン方式』を採用しました。さらに、下水道センターの発生ガス量実績から、加温に必要な熱量を確保した上で発電可能な容量を算出し、25kWの発電機×8台の構成で合計200kWの発電出力を確保するものとしました。
その結果、下水道センターの電力基本料金と電力量料金を合わせて、年間で約3,000万円の削減が可能になるとともに、CO2削減量は年間約850t-CO2(酸素を含んだ重量)となり、目標どおり経費削減及び環境負荷低減へ寄与する設計を実現しました。微力ながら地球環境に貢献できたと自負しています」。
事業の背景を踏まえ、設計イメージを具体化
日水コンはJ市下水道センターに関して数年前に消化タンクの増設設計を行っており、その際に消化ガス発電設備導入の提案も行ったという経緯がある。
「当時は大規模施設での消化ガス発電設備が主流で、中小規模施設にとっては費用対効果を得られる発電設備の種類がまだ少なく、全国でも導入実績が乏しい状況でした。そのためその時は導入を見送られましたが、ここ数年で再生可能エネルギーや新エネルギーが注目され、固定買取制度など社会の流れも後押しし、徐々に実績が増えてきています。そうした経緯を踏まえて今回の消化ガス発電設備の導入に至りましたが、以前に導入検討を行っていたことで、最終的な青写真を早い時期にイメージすることが出来ました。過去の努力が実ったな、と感じています」。
どの業務においても共通することとして、設計者が目指す成果のイメージを持ちながら、顧客の要望や処理場の特質などを十分に把握し、そのイメージをより良い設計成果として具体化することが重要なプロセスだとF副部長は考える。
「このプロジェクトにおいても、下水道センターに適した消化ガスの利用方法や発電機方式の選定を行い、ニーズに応じた設計を行うことができました。こうしたプロセスを大切にして業務に取り組んでいます」。
未来を描く水コンサルタントの仕事
F副部長は、水コンサルタントの仕事を次のように表現する。
「私たちの仕事は、私たち自身の生活を支えるインフラを創り維持する仕事です。上下水道って実は、エネルギー問題や人口減少、高齢化社会など社会の様々な課題と密接な関係があるんです。ですから、この仕事は“自分の未来を自分で描く仕事”であると言えます」。

未来の機電系エンジニアに向けて、F副部長は想いを述べた。
「若い世代の皆さんにキーマンとなって、これからのインフラを支える仕事に携わっていただきたいと、強く願っています。そのためには、学ぶ姿勢を持ち、何事にも積極的に取り組むことが大切で、それが自分にも周りの人たちにも良い影響を与えて好循環を生みますので、失敗を恐れずに挑戦して下さい。未来の水インフラを担う皆さんと一緒に仕事できる日を楽しみにしています」。