導水施設の改良に伴う基本計画策定
複雑な条件下で大事業の最適解を目指す
PROJECT MEMBER
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水道事業部 東京水道部
技術第一課 課長(記事掲載時)
H. N.
1998年入社
「水道の大動脈」導水管の改良とは

「このプロジェクトでは、より緻密な調査や計算が不可欠だ」。水道事業部のH課長は、大きなプロジェクトの管理技術者を任され意気込んだ。
A市の莫大な給水量のおよそ2割を占めるB浄水場を上流とつなぐ、X系導水管及びその水路の改良プロジェクトだ。導水管とは別名「水道の大動脈」とも呼ばれ、河川や湖沼から取水した原水を浄水場などの水道施設に送るための管のことを指す。X系導水管は、取水するダムから貯水池等を経由してB浄水場に送る管であり、総延長37kmに及ぶ巨大な導水施設である。
「X系導水管は大地震(レベル2地震)に対する耐震性能の不足が確認されており、地震発生時の安定的な給水が懸念される状況でした。そこで、B浄水場の再整備と併せ、導水路の改良に要する基本計画を策定しました」。
基本計画の策定にあたっては、必要流量(48万㎥/日)の確保を前提とし、C浄水場からD浄水場を経てB浄水場に至る区間の導水方式に関する計画を立案した。
調査と計算結果を踏まえ、最適解を検討する
顧客には、省エネルギー化のため、ポンプを使わない自然流下での導水を維持したいというニーズがあった。
「原水を自然流下で浄水場に送水することが可能であると検証するため、地形条件(地形の起伏)等を綿密に調査し、精度の高い水理計算を行うことが求められました」。技術者H課長の腕の見せ所だった。

さらにH課長はプロジェクトのポイントをこう説明する。
「現状では導水管が1本しか通っておらず、このままでは断水が起きかねません。あらゆる状況を想定し、将来的にも安定的に給水できるように、まず新規に導水管を布設し、その新設管を運用している間に既設管を更新することで、将来的には2本体制で運用するという計画を立案しました。これにより、どちらかの導水管が破損しても、断水することなく原水を浄水場まで送ることができます」。
また、既設管と新設管の相互融通を可能にするため、管同士の接続が必要であったが、これについても不断水工法(通水しながら管を接続する工法)を採用することで断水を回避した。
単純にはいかないからこそ、知恵を絞る

新設する導水管は口径2000~2400mmで延長約10kmに及ぶ大規模なものであるため、ルート選定は困難を極めた。構想では導水管の大部分を主要国道の下に埋設する必要があったが、地上の交通量が多く、地下には他の埋設管が多数混在しており、また鉄道や河川の横断も避けられないためだ。
「現地調査を重ね、多岐にわたる検討を行った結果、安価で施工期間も短縮できるルートを選定することができました。更新計画は順調に進んでおり、策定した計画は妥当であったのではないかと思っています」とH課長は手応えを感じている。
「蛇口をひねれば水道水が出る」という信頼や安心は、水道配管が無事に繋がっていることで保たれる。一見、シンプルに思われる導水管についても、省エネ対策やルート選定、清掃時の排水方法など様々な検討事項があり、ただ掘って埋めるだけではない。

プロジェクトを進める中で、H課長は改めてこの仕事の面白さに気づいたと言う。
「道があればその全てが布設ルート候補となること、シールド工法や推進工法などの技術も日々進歩していくこと、行政の他機関(道路、鉄道、河川など)との協議抜きに好き勝手な場所に管路を入れられないこと。配管一つを埋めるのにしても考慮すべきことがたくさんあって、単純ではないのだと痛感しました」。
水道コンサルタントの醍醐味
今回のプロジェクトは大都市を横断する導水管計画であり、前述の通り行政の他機関との調整が課題の一つであった。鉄道の地下鉄化により計画していたルートの大幅な変更を余儀なくされたことなど、苦労も多かった。しかし、とH課長は今回の経験を振り返る。
「困難が多い時ほどやりがいも大きくなるもので、そうした課題を解決して計画を立案できた今では、全国でも導入実績の少ない工事に携われたことが自信になりましたし、都市の発展にも貢献できたはずだと充実した気持ちです」。
そして、H課長は笑顔で次のように締めくくった。
「100年先までも無事に水道水を配り続けることを目指す事業に技術者として携われることは、とても幸せなことだと感じています。日水コンでは、日本が世界に誇る水道事業の一端を担うことができ、今まで当たり前のように使っていた水道を、自分の手でより良いものにしていく“水道コンサルタントの醍醐味”を味わえます。
導水管の先には、原水を飲み水に処理する複雑な機構の浄水場があり、水道事業の奥は深いなと、私自身まだまだ興味が尽きません」。
